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【簡単な書評5】Cognitive Therapy and The Emotional Disorders (Beck, 1976)

 

Cognitive Therapy and the Emotional Disorders

Cognitive Therapy and the Emotional Disorders

 

どのようにして情動障害は起こるのか

認知療法では、認知が情動を引き起こすと考える。認知とはここでは自分の経験に対する意味づけ、つまり解釈である。この解釈が現実的である場合、そして論理的である場合には正常な情動状態にあるが、一方で非現実的な解釈・非論理的な解釈をしてしまうと異常な情動状態になる。具体的にはPersonalization、つまり何事も自分と関係しているかのように解釈してしまうこと、そしてPolarized Thinking、つまりなんでも極端に解釈してしまうことが挙げられている。また、人はこのような認知を自分では気付かないルールに基づいて行っている。それぞれの情動障害に対して、特有のルールがある。このルールを明らかにするためにはクライエントにいろいろな質問して、このルールに、もしくはこのルールによって導き出されている認知に意識を向けさせないといけない。ここでは詳しくは述べないが、この本の中では、うつ病、不安障害、恐怖症、心身症について、それぞれに特有の認知がケースとともに説明されている。こういった情動障害がどう発生するかについて彼が行う説明は、認知・情動・生理学的な体の変化の間で起こる悪循環に強調が置かれていることは特筆すべきであるように感じた。例えば、認知:犬を見て「それが私の首を噛むのではないか」と考える→情動:不安になる→生理:心臓の鼓動が早くなり、呼吸が早くなる→認知:「やはり危険な状況にいま私はいるのだ」→情動:さらなる不安。というような悪循環である。

異常な認知とは何かに関する彼の考えは所々で揺れているように見える。本の序盤では、上のように現実との乖離や非論理性で認知の歪みが規定されているが、後半になると、不適応な認知とは何かということで患者の福祉を害したり、患者の達成したいことを達成できなくさせるような認知と規定されている。

認知療法はそれをどう治療していくのか

基本的には以下の手順で行われる。

  1. 患者に働きかけて、自分の認知を意識させる。
  2. どの認知がまちがっているかを認識させて、それはただしいものに変えさせる。
  3. その認知の変化がただしいものかどうかフィードバックを与える

この手順をどう実際に行うかによって、知的アプローチ、経験的アプローチ、行動によるアプローチが紹介されている。

また、認知療法で重要なのは、患者との協働であるとされる。セラピストが患者を治すという関係ではなくて、セラピストと患者が一緒になって患者の問題を解決するという関係になるのが望ましい。クライエントが経験していることについて適切な仮説を立てて、それに基づいてセラピーが行われるので、セラピストがクライエントの認知に関して立てた仮説がただしいのかどうかクライエントに吟味してもらうことが重要になる。セラピストの方が立場が上であったり、逆にクライエントがセラピストのことを信頼しなさすぎたりすると、このような過程をうまく遂行できない。

認知療法と他の心理療法との関係(特に精神分析行動療法) 

ベックは自身の認知療法精神分析行動療法のそれぞれの良いところを取り入れたものだと考えていたようである。精神分析はクライエントの内的な過程を考慮することができるが、精神分析が解釈するために使う概念は日常的な考えからかけ離れていてクライエントには理解できないのが難点である。一方で行動療法は目に見える行動のみを扱うのでその客観性やテスト可能性については優れている。しかし変化が起こる仕組みについて、内的過程に触れずに説明をしようとするので、その説明は不十分である。対照的に認知療法は、認知という変数を入れることで行動療法よりも変化について充分な説明をすることができる(ベックによれば行動療法の技法で変化が起こるのは認知の変化が起きているからである)。それだけでなく、精神分析のような難しい概念を使わないので、クライエントには理解・検討ができるし、科学的な検証も可能である。この点で認知療法精神分析行動療法よりも優れていると言える。

感想

もともとベックは認知療法行動療法の間に共通点があると考えていたとか、認知療法行動療法の技法を取り入れたとか、そういうようなことを聞いていたため、ベックが行動療法認知療法の一つであるとはっきり言っているのには驚いた。

バンデューラも悪循環を強調していたが、ベックのいう悪循環とバンデューラのいう悪循環には違いがある。ベックはこの悪循環の中に行動を要素として組み入れていない。彼はもっぱら内的な過程として情動が生じると考えていたようである。これも興味深い点。

日本語訳はこちら。

認知療法―精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ)

認知療法―精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ)