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英語の語源の勉強は何の役に立つのか ーcompassの語源を例にしてー

以前やっていたブログで書いたことと同じようなことを書きたくなったので書きます。

 

 

あるcompassの語源

ある冊子にコンパスの語源として以下のような記述がありました。

com-(ともに)+pass(歩く)→つまり歩くときの(道標として)使うものがコンパスなのだ。

 というもの。

この説明はなかなか面白く、この語源から昔の旅行者がコンパス片手に旅をしていた姿が思い浮かぶようで、なんだかかっこいい感じもします。

しかし、コンパスは航海のときに使うものとしてのイメージが強いし、またこの説明ではなぜこの単語が円を描くための文房具を意味するのかは説明できません。

ということでいろいろ調べてみたところ、以下のようなことがわかってきました。

compassの正しいと思われる語源

主に使用した辞書は以下のもの。 

英語語源辞典(縮刷版)

英語語源辞典(縮刷版)

 

 

Oxford Dictionary of English Etymology

Oxford Dictionary of English Etymology

 

 こちらによると、

com-(完全に)+pass(歩く)→円形に歩くこと、がもともとの意味。

どうやら、「土地の広さを歩くことによって測定するときに、その土地の周囲を完全に歩くこと」から「測定する」を意味したラテン語が起源のようです。

ここから、周囲を完全に歩く→円形に歩く→円、と語義が発展したようです。

 

この説明の優れている点はこれでなぜこの単語が円を描くための文房具を意味するかが説明できることです。しかしこの段階ではまだ、なぜcompass羅針盤を意味するのかがわかりません。なぜこの意味が出てきたのでしょうか。

どうやら顛末は次のようなものです。

15世紀頃にイタリアで、ただ羅針盤も丸い形をしているからという理由で、羅針盤を指すためにcompassoという言葉が使われ始めた。ここからcompass羅針盤が意味されるようになった。

接頭辞や語幹とは関係ないところから、この意味は出てきたということです。

語源の勉強は何の役に立たないのか

この話から、次のような結論を導くことができます。つまり、接頭辞・接尾辞・語幹の勉強をしたことろで初めて見る単語の意味を推測できるようには必ずしもならない、ということです。理由としては次のようなものが挙げられます。

1. 接頭辞や接尾辞には二つ以上の意味があることがほとんどである

上の例ではcom-という接頭辞が「ともに」と「完全に」という意味の二つを持っていました。新出単語を見つめるだけでは、このうちどちらが正しい意味なのかを決めることができません。

2. 接頭辞や接尾辞、語幹の意味だけで単語の意味は決まっているわけではない

語源の知識によって新出単語の意味を推測できるというとき、その裏側には単語の意味は接頭辞、接尾辞、語幹によって決まるという前提があるでしょう。しかし、上の例ではcompassoという言葉が羅針盤という意味を持ち始めたのは、歴史上の偶然です。したがって、この前提は正しいものとは言えません。

というわけで、語源を勉強したって、新出単語の推測は信頼出来る形ではできません。もちろん正しい推測にいたることはありますが、それだけに頼るのは危険です。辞書を引いたほうがいい。

では語源の勉強は何の役に立つのか

しかし語源の勉強が無意味かというと全くそうではありません。私が考える語源勉強の意味は以下のようなものになります。

1. 語幹を元にして、新しい語彙を広げることができる

compassの語根はpassに当たる部分でしたが、これをさらに遡るとto spreadを意味するものに行き着くのだそうです。上にあげた辞典には各語幹ごとに、それに由来する単語のリストが載っているので、そのリストを使って新しい単語を効率的に覚えられます。

たとえば

  • fathom:尋(ヒロ)、水深の単位で1.83m ✴︎手を広げた(spread)長さ
  • petal:花弁 ✴︎花の外に広がっている(spread)部分

2. 語幹を元にして、既知の単語を整理することができる

新しい単語だけでなく、すでに知っている単語についても、語幹を根拠にしてまとめなおすことができます。これはちょっと面白い体験です。今回の例で言えば、

  • expand:広げる
  • pace:歩幅 ✴︎足を広げた(spread)幅
  • pass:通る ✴︎足を広げた幅→歩く→歩いて通る

3. 多義語について、なぜその単語が色々な意味を持つのかが理解できるようになる

今回の語源の記述でわかった通り、compassの語源を調べると、なぜこの単語が①羅針盤②文房具のコンパス、の意味を持つのかが理解できます。また、今回の記述から、compassに③境界、という意味がある理由も理解できると思います。

まとめ

塾業界にいますと、英単語の語源の勉強とはすなわち語幹・接頭辞・接尾辞に関する勉強であるということ、およびこれらの勉強をすると語義の推測ができるようになること、この二つを主張する人に出会うのですが(前者は暗黙のうちに主張されていることが多いですが)、こういった主張には首肯しかねます。

語源の勉強とは語幹・接頭辞・接尾辞に関する知識を獲得することだけでなく、ある単語がどういう歴史を辿ってきたのかを調べることでもあります。また、語源の勉強をすることで単語の意味を正確に推測することができるようになるとは必ずしも限りません。しかし、語源の勉強は上に挙げた3つの点で役に立ちます。こういった目的で勉強したいのであれば、語源で増やす!英単語!のようなタイトルの薄い単語帳ではなくて、語源を専門的に扱った辞書を教材とすることをおすすめします。